SDGsの折り返しにあたり、代表理事からのメッセージ

懸念されるSDGsウォッシュ化と日本企業に求められる価値創造ストーリー

日本のSDGsの取り組みはCSRと同じ道を辿るのか

2000年代の初頭に欧米ではCSR(企業の社会的責任)の取り組みが加速化し更にCSV(共通価値の創造)へと進みました。2005年10月に来日中だったウォルマートのCEOのリー・スコットと同行中に、私にこれから帰って重大な発表をする、このままではウォルマートは嫌われてしまうと言いました。それが「21世紀のリーダーシップ」ウォルマートは自社のビジネスと世界全体の未来のために、今よりさらにサスティナブル企業に進化するとのスピーチでした。さらに「2007年サスティナビリティ360」を宣言し「持続可能な価値ネットワーク」の委員会を設置しました。又、サプライチェーンマネジメントと情報システムの強化に取り組み、ウォルマートは今では世界有数のサスティナブル企業であり、アマゾンとのEC競争にものの見事に対応しました。 日本ではCSRは社会貢献として捉える企業が多く本業とは別のコストとして捉え、今、SDGsを狭義の社会貢献や環境問題として捉え、自社の事業活動や製品がSDGsのどこに貢献しているとロゴを張り付けホームページや報告書に掲載して終わりにしている企業が多く見受けられます。このままでは日本企業はCSRで犯した過ちを繰り返して世界の企業に求められる価値の変化に取り残されてしまうのではと懸念しています。

SDGsの本質は「持続可能な資本主義」への転換への動き

産業革命以来の人類の活動、更には1980年代の新自由主義と冷戦終結に伴う市場経済のグローバル化が気候変動や格差問題を引き起こしているとの問題意識が1990年代後半から言われ始め、2008年のリーマンショックを契機に投資家と市民を中心に問題意識が広がり、欧米の企業に行動の変容が起きました。国連のアナン事務総長の3つの仕掛け「1999年の国連グローバルコンパクト」「2000年のミレニアム開発目標(MDGs)」「2006年の機関投資家へのイニシアティブとして責任投資原則(PRI)」が産業界に効果を発揮し始めたのもこの時です。今、なぜ世界で日本が誇る経済学者宇沢弘文が再評価されているのか。新自由主義を唱えたフリードマンに対して「社会的共通資本」の考えを提唱した宇沢弘文。新自由主義の「すべてを市場の競争に任せて強いものが生き残ることで成長・発展する」との考えではなく、市場に任せる分野と社会が支える「社会的共通資本」があるとの考え方です。これは持続可能な資本主義への転換が起きているのではないでしょうか。20世紀型の産業から21世紀型の産業への移行が起きているのだと思います。

「持続可能な資本主義」への転換は社会や産業の構造変革を起こす

「持続可能な資本主義」とはいったい何でしょうか?私は「限りない拡大・成長を目指す社会からの転換」具体的には「地球や自然が再生可能な範囲での負荷に止め、生態系のバランスを取り戻すこと」「人々が社会的不安定を起こさない範囲の格差に止め、価値観に合った幸福を感じられること」だと思います。企業は気候変動への取り組みとして脱炭素、カーボンニュートラルを進められていることと思いますが、このことは当然であり、企業活動での温室効果ガスの排出の削減は必須事項だと思います。スコープ3ではサプライチェーンでの温室効果ガスの排出の情報開示が求められています。しかし、問題はそこではなく、例えばモビリティ産業においては脱炭素社会に向けてBEVへの移行が加速化しています。このことはモビリティ産業の構造が根本的に変わることを意味しています。BEVと相性の良い自動運転技術は移動手段の変化、更には社会生活そのものを変えてしまいます。又、エネルギー変化は化石燃料時代の終わりを告げており、日本の遅れが指摘されていますがこれも、産業や社会の在り方を根本から変えていきます。更に、トフラーの第三の波で予言された「産業社会・工業化社会から情報化社会へ」は現実化し、今はAIやメタバース社会へと進化しており構造変化が起きています。この動きの先にあるものは何か、世界は脱炭素社会への動きを起点にあたらたな価値観の社会に入ると思われます。それは持続可能な資本主義「生態系化社会」への移行が起きることを意味します。企業でいえばマルチステークホルダー「顧客」「取引先」「社員」「株主」「地球」「地域社会」「自社」そして「未来」八方が科学技術イノベーションの進化の範囲内で調和がとれた良い社会を目指すことではないでしょうか。

「持続可能な資本主義(生態系化社会)」で求められる企業の新たな価値創造ストーリー

産業革命以来、企業が果たしてきた「価値の提供」にパラダイムシフトが起きれば、当然、企業は社会の期待に応える新たな価値創造ストーリーを提案しなければなりません。 先ず、誰に対して(ターゲット)、どの様な価値(バリュー)を提供するのか、すなわち、自社の「存在意義(パーパス)」を見直す、若しくは設定することが必用になります。次にパーパスを実現するために、何を持って(コアコンピタンス)、どうやって(ケイパビリティ)、どう利益を確保(プロフィット)を明確にしなければなりません。正に新たなビジネスモデルの構築です。そして、パーパスの実現に向け2030年からのバックキャスティングと現状のフォアキャスティングを作成し、そのギャップを課題として捉えマテリアリティ(目標)に定め、具体的アクションプランとKPIを設定して公開すべきだと思います。今、企業のホームページや統合報告書を拝見するとありきたりの非財務指標を掲げ、公開するだけで、その企業が新たな価値観の社会に対して、どう新たな「価値創造ストーリー」を描いているのかが見えないケースが多々見られます。 SDGsの取り組みとは自社が持続可能な資本主義(生態系化社会)において、どの様な価値の提供で、社会から必要とされ続け、持続可能な企業に向けての価値創造ストーリーを明確にし社会にコミットすることです。踏み込んでいえばSDGsへの取り組みは企業の投資戦略を明確にすることです。我社はどの分野で進むのか(ポートフォリオの先鋭化)、コアコンピタンス(知的資本)は何か、足りない所をM&Aか、設備資本の投資戦略は、人的資本をどう強化して行くのか、自然資本や社会関係資本の取り組みはどうするのか。今こそ、ステークホルダーに、世界の転換期の中で自社の価値創造ストーリーをエンゲージメントすることがSDGsの取り組みの本質だと思います。是非、SDGsの折り返しにあたり、皆様におかれましては私の提案をご理解いただき、御社の取り組みを振り返る中でお役に立てて頂ければ幸いです。  当法人は今後も講演、研修、コンサルティング活動や現在進行中の「SDGs経営塾3期生」の育成などを通じて「持続可能な資本主義(生態系化社会)」の実現に向け貢献してまいりたいと思いますので、 引き続きご指導ご鞭撻を頂きたく宜しくお願い申し上げます。

2023年9月8日
一般社団法人中部SDGs推進センター
代表理事 戸成司朗